グラウンド整備の専門家選手の〝足元〞支える

広島東洋カープ 施設運営部

石原 裕紀 次長
広島のプロスポーツを応援!!【カープ&サンフレッチェ特集】|広島経済レポート
-グラウンド整備を担当されています。

佐々岡監督と同じ浜田商業高校(島根)野球部出身で、卒業時に当時の部の監督から紹介してもらったのがきっかけで入社しました。高校時代のポジションは守備機会が多いセカンドで、ゴロの打球がイレギュラーしないように当時からグラウンド整備にこだわっていました。

-入社当時の苦労を教えてください。

私たちが整備に使う木製トンボ(レーキ)は一般的なホームセンターで購入できるものと同じです。先輩方を見てまず驚いたのがその使い方。体の一部のように扱い、均等で凹凸が全くない状態に短時間で仕上げる。見たことのないきれいさで圧倒されました。さまざまなアドバイスをもらいましたが、聞いた通りにやってもうまくいかない。見よう見まねで試行錯誤し、自己流でコツをつかむまでに2年かかりました。
1試合のうちに整備のタイミングは3回(3・5・7回裏終了時)あります。時間はイニング間のそれぞれ2〜4分ほど。優先するのが野手の守備位置の前側のランナーが走る部分です。多く進塁する打撃戦だとかなり荒れます。走路から守備位置まで時間の許す限りきれいにしますが、自分がならした場所で打球がイレギュラーして野手がエラーをすると、悔しい思いをしますね。

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レンガを細かく砕いた石にさまざまな質の土を配合し、適当な硬さに仕上げた赤土を採用。選手の躍動を支えている

新旧スタジアムで土質が違う

旧市民球場は火山灰などを配合した日本の一般的な野球場で使われる黒土でした。一方、マツダスタジアムは赤土。インフィールド(内野部分)が芝生の球場でも映えるようにと採用されました。赤土はレンガを細かく砕いた石にさまざまな質の土を配合した特殊なもの。選手がプレーしやすい適当な硬さに仕上げるのが大変でしたが、同じく赤土を採用している神宮や横浜など他球場に比べて整備性に優れていると思います。ピッチャーマウンドやバッタースボックスには米メジャーリーグで使われるものに近い粘土を配合。適度に硬く粘り気があり、えぐれにくいと選手からも好評です。

-整備で大変な場所は。

一番苦労する箇所は芝生と土の境目です。芝生は弾力があって軟らかいですが、土は硬いためどうしても土の方が高くなる傾向にあります。また、芝生の生え際の土が硬くなり過ぎるため、イレギュラーの確率が高くなる。試合中のイニング間には生え際の整備ができないので、試合前後や選手が県外遠征に出た際に、重点的に土を削って軟らかくするなど、入念に整えています。

-整備の難しい時期はありますか。

屋外球場なので当然、雨の日が大変。シートを敷くためぬれませんが、湿気で土が硬くなるので常に注意が必要です。例えば、試合前にシートを剥がしたらちょうど良い硬さになるよう、前日に普段よりも軟らかめに仕上げておくとかですね。
天気が良い日にまく水の量も重要。晴れの日が続いて乾燥している時はたっぷりと、夏場の湿度の高い日には表面にだけさっとまくなど工夫します。判断基準はこれまでに培った感覚だけ。見渡した感じや土を踏んだ感覚が頼りです。誰に教わったわけではない、まさに自己流です。正しいかどうかは分かりません。マニュアルがないので、失敗したら反省して次に生かすしかないですね。

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使用するトンボは、土に接する面の角度が急すぎても滑らかすぎても駄目。6カ月に1度は修正しています。調整は経験や感覚が頼りです

-試合後の荒れ方で選手の状態が分かるそうですね。

現在、ピッチャーマウンドを担当しています。特に土がえぐれるのは森下暢仁投手。踏み出す足(右投げの場合、左足)側に力が入っているためで、体重移動など体の使い方が優れているのだと思います。ピッチャープレートの踏み方も投手によってさまざま。野村祐輔投手や九里亜蓮投手は一塁側ぎりぎりを踏みます。自分の持ち玉や投球の幅を広げるため に工夫されているのかもしれません。
投手の足を踏み出す位置や土のえぐれた状態で、その日の調子の良しあしの理由が分かることも。ささいなことかもしれませんが、投手にとってそれだけ下半身の使い方は重要なのでしょうね。

-守備位置がよく荒れる選手は。

どの球団でも同じでしょうが、内野で一番動く機会のあるショートです。田中広輔選手や小園海斗選手のように足の速いプレーヤーが躍動した証です。一方で菊池涼介選手はあまり荒れません。「忍者」と称される圧倒的な守備範囲で、外野の芝生部分で構える独特のポジショニングのため、足跡が付かないんです。

-やりがいは。

何と言ってもチームの勝利。僕らが整えたグラウンドで選手が躍動し、勝利すると報われます。16〜18年のセ・リーグ三連覇の時に「ホーム球場で強いカープ」と話題になったのは誇らしかった。
試合後に選手や監督・コーチがよくねぎらいの声を掛けてくれます。われわれは陰で支える存在ですが、選手と共に勝利を分かち合えるのも魅力の一つです。

-目標を教えてください。

天候や湿度などさまざまな要素でグラウンド状態は刻々と変わります。それらに対応する方法は無数にあり、正解はありません。だからこそ多様な知識や技術の引き出しを持ち、対応力を高める。現状に満足せず、常に高いレベルを求め続けることです。

プロフィール石原 裕紀(いしはら・ゆうき)1981年5月27日生まれ、島根県浜田市出身。浜田商業高を卒業し、2000年入社。グラウンドの整備士4人を束ねる。担当はピッチャーマウンド。

CONTENT【カープ&サンフレッチェ特集】

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